藤本タツキ『ルックバック』を読んで

ルックバックの雑感

ちょうど2年前、京アニの放火事件があった7月18日が終わる24時に公開された読み切り。
ファイアパンチ』『チェンソーマン』の藤本タツキ先生の読み切り。

shonenjumpplus.com

何度も読んだり、他の人の呟きなども目にして、咀嚼したので感想として残してみる。

みんな絶賛しているけれど、正直1読目はよくわからなかった

読み急いでしまったこともあり、 あまりにも鮮やかなに「京本が部屋からでなかった話」がシームレスにインサートされ、 正直どういう風に話を受け止めればいいのかよくわからなかった。
なんかこの殺人事件の男の「元々オレのをパクったんだろ!?」の発言、既視感があるような……?
この「京本が部屋からでなかった話」は何なのか。

2読目をしてガクンと味わった衝撃

2読目で、この殺人事件は京アニの放火事件なのだ、と気がつく。
昨日は「京アニの放火事件から2年目なのか」と知ってたのに、鈍くさい自分。 ここで、何もかも紐解かれていく。 これは、まさしく藤本タツキ先生なりの京アニへの追悼なのだと。

Don't look back in anger

最初のコマの黒板の右上に書かれた「Don't」 最後のコマの左下の表紙に書かれた「In Anger」 そして、タイトルの「Look Back」

これらを繋ぎ合わせた一文は「Don't look back in anger」で、
翻訳すれば「怒りで振り返るな」「後ろ向きに過去を見るな」といった具合でしょうか。

これは、藤本タツキ先生の考え方であり、メッセージなのだ。 - 振り返ってもいい。でも、前向きに。 - 怒ってもいい。でも、未来へ進むために。

怒りで漫画にぶつける藤本タツキ先生

2017年のファイアパンチ5巻発売記念のインタビューで「怒りを漫画にぶつけている」と言ってた藤本タツキ先生。

藤本タツキ×沙村広明奇跡の対談

僕は読み切りを描く時は大体怒りで…。例えば、今ネット上で怒っている人が多いじゃないですか。そういう人たちって、Twitterとかで発散できていると思うんですけど、僕は自分の怒りなどをTwitterとかに書く気が知れなくて。漫画にぶつけているんですね。

事件が起きたのは2019年で今は2021年だけれど、この読み切りを書いたときもやっぱり怒っていたのかもしれない。
京アニで働くクリエイターとしての同士が理不尽な理由で命を奪われたことに怒っていたのかもしれない。
もしかしたら、京アニで働いていた友人の命を奪われたことに怒っていたのかもしれない。
それを漫画という形で昇華させた藤本タツキ先生。

タイトルのルックバックって

Weblio英和辞書: look backの意味・使い方・読み方

振り返って見る、(…を)回顧する、追憶する、しりごみする、うまくいかなくなる、後退する

(1) 振り返って見る.
(2) 〔…を〕回顧する, 追憶する 〔on, upon, to, at〕《★受身可》.
He looked back fondly on his school days. 彼は学生時代を懐かしく追憶した.
(3) [しばしば never, not を伴って] しりごみする; うまくいかなくなる, 後退する.
You must not look back at this stage. ここまできて後に引いてはいけない.

いい意味もあれば、悪い意味もある。 京アニへの「追悼」であり「回顧」だけれども、だからといって「後退」してもいけない。 そして、backには背中という意味もあり、物語で「背中」は重要なキーアイテムとなっている。

  • 自分より上手い絵を書く京本の背中を追う藤野
  • 京本の服の背中にサインしてあげる藤野
  • 「京本も私の背中を見て成長するんだなー」と鼓舞する藤野
  • 京本の描いた「背中を見て」という4コマ漫画を見る藤野
  • 京本に書いた背中のサインを見る藤野

京本も藤野の漫画が好きで尊敬して、背中を見ていたかもしれない。
しかし、同時に、藤野もまた京本の圧倒的な努力と画力を知り、京本の背中を見ていたといえる。
美術の大学でも頑張っていた親友の京本の努力を知っているからこそ、藤野は悔しく悲しかっただろうし、
一方でそんな京本から尊敬されてたからこそ藤野は立ち直って「天国でも私の背中を見てろよ」と背中で語っているようだった。

参考

24時頃に公開された模様